電気

ベクトルネットワークアナライザ(VNA)の使い方メモ

今年一月からの職場でよく使うのがベクトルネットワークアナライザ(VNA)。最近では使い方にも慣れてきた。ここらへんで使い方についてまとめておこうと思う。頭の整理もかねて。

サムネイルはアンリツ社のネットワークアナライザ。こちらから引用しました。

ネットワークアナライザとは

ネットワークアナライザは、ある周波数範囲の中における周波数特性を測定する装置である。ネットアナと略される。なので当記事でも以下ネットアナと表記する。

ネットアナは周波数範囲を指定して、その範囲内で周波数を連続的に変化させながら、周波数ごとの測定値を得る。測定データをグラフにすると、横軸に周波数をとるような形になる。

ネットアナには電力の大きさだけを測定できるスカラネットワークアナライザと、電力の大きさに加え位相も測定できるベクトルネットワークアナライザがある。ただ単に「ネットワークアナライザ」「ネットアナ」という場合、基本的にはベクトルネットワークアナライザを表す。この記事でもベクトルネットワークアナライザを扱う。

ベクトルネットワークアナライザで得られるデータは周波数ごとの入力電力と出力電力の比(複素数)。これをSパラメータという。たかが電力比ではあるが、これだけの情報で電力のロスや反射係数、VSWRやスミスチャートなど様々なことがわかる。

ちなみに、ここでいう「ネットワーク」とは回路網のこと。ネットワークというとコンピュータのネットワークをイメージしてしまうかもしれないが、そうではない(ちなみに私も最初はコンピュータのネットワークに関する測定装置だと思った)。

ベクトルネットワークアナライザの使い方

ネットアナには豊富な機能が含まれていていろいろなことができるが、ここでは単にSパラメータを取得する方法を書いていく。私もすべての機能をまだ把握しきれておらず、修行のみである。

1.ウォームアップ

ネットアナの内部温度は電源を付けてからしばらくの間上昇し続ける。ネットアナの内部には測定回路が存在するが、これは温度によって特性が変化するので、電源をつけてから温度が上昇している間、ネットアナ内部にある測定用回路のパラメータは変化し続ける(ドリフト)。つまり同じものを測定しても結果が変わり続ける。

そのため、温度が安定していない状態で測定を行うと、例えば複数個のサンプルを順々に測定していくという場合、サンプルごとに測定条件が異なっている、という状況になる。

ただし、ネットアナの内部温度は無限に上昇を続けるわけではなくいずれ安定する。温度が安定してから測定を行えばドリフトによって変なデータを掴まされることはなくなる。

というわけで、ネットアナの電源をいれてから最初に行う行動は、ちゃんとした測定を行うためには温度が安定するまでしばらく待つ、ということである。これがウォームアップ。

どのくらい待てばいいのかというと、30分くらいは待ちたい。取説にウォームアップ時間が書いてあるならその通りに待つ。

2.周波数など測定条件の設定

周波数範囲の設定

「どこからどこまでの周波数を見るのか」について設定する。具体的にはセンター周波数、スパン、スタート周波数、ストップ周波数などを設定する。

例えばセンター周波数を500MHz、スパンを200MHzと設定してやると、500MHzを中心に200MHzの範囲を見ることができる(つまり400MHz~600MHzの範囲を見ることふができる)。スタート周波数を400MHz、ストップ周波数を600MHzと設定してやっても同じことができる。

ポイント数もしくはステップ周波数の設定

ポイント数とは設定した周波数範囲を何ポイントで測定するか、というもの。要は取得できるSパラメータの個数。

例えば1GHz~2GHzの周波数範囲を1001ポイントで見る場合、1MHzごとにSパラメータを測定することができる。

ポイント数は多ければ多いほどグラフは滑らかになるが、データ容量はでかくなる。ネットアナごとにポイント数に上限があるので注意する。また、測定データを処理するために使うパソコンのソフトウェア側にもポイント数の上限があることもある。測定してみたら解析できないなんてことの内容に注意。

測定ポイントについては、合計数ではなく、「何Hzごとに測定するか」で指定する場合もある。これはステップ周波数を設定してやればよくて、例えば「1MHz」と設定してやれば1MHzごとにSパラを測定できる。ポイント数の上限を超えないように注意。

IF BW

ネットアナの受信回路にあるIFフィルタの分解能の設定。小さくしてやればノイズが減って、ネットアナに表示される波形のちらつきも減る。

しかし小さくすると波形が表示されるまでの時間が長くなるので、とりあえず最小値にしておけばいいというものではない。

なお、これらの設定はウォームアップ中に行っても問題ない

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3.校正(キャリブレーション)を行う

校正は測定物(DUT)とネットアナの間にある余計なものを計算によって除外してしまう行為である。

例えば2ポートの測定を行う場合、ネットアナはポート1とポート2の間にあるものを
測定物だと判断する。実際には測定物とネットアナのポートをケーブルを使用して接続するので、このままではケーブルの特性が測定結果に含まれてしまう。しかしケーブルの特性は測定したくないので、校正を行うことによってケーブルの影響を取り除く。

校正は既知の特性を持つ回路(標準器)を測定して、本来測定されるはずの値と実際に測定された値の差をもとに、余計な情報を計算によって補正する。

校正はいろいろな回路を付けたり外したりして行うマニュアル校正(マニュアルキャル)と、一回接続してやるだけですべて自動でやってくれるオート校正(オートキャル)がある。オートキャルのほうが付け替えの手間もなく速いし、付け替えによるコネクタの消耗もなくてよいと思う。

ポート数が増えると、校正を行うために必要な未知数の数が増えるので処理に時間がかかる。

なお、校正を行った後で「2」の工程で設定した周波数などをいじってはいけない。これらの条件によって得られる計算の結果は変わるので、校正を行った後は測定条件を変更してはいけない。

4.ポートエクステンションを行う

校正によってケーブルの影響を取り除くことに成功したが、まだ完ぺきではない。

校正を行う事でケーブルの先端までは補正が行われている。そのためケーブルと測定物(DUT)を直接接続することができれば正しい結果を得られる。しかし、実際には治具に測定物を載せて、治具にケーブルを接続する形になるので、治具のコネクタからDUTまでの間に部分の影響が存在する。この部分を取り除くための工程がポートエクステンションである。

やり方としては、治具からDUTを外した外した状態でネットアナと接続してネットアナに搭載されているポートエクステンション機能を使えばいい。

5.測定を行う

ポートエクステンションまで行えば、ネットアナと測定物を直接つないだ状態と同じになり、正しい測定結果を得られる。